昔のカラオケの思い出
以前(15年以上前)、私が働いていた高齢者施設の食堂には、大きな業務用カラオケマシンが設置されていました。
レーザーディスク式の古い機械で、ディスクを交換するたびにチェンジャーデッキがガチャガチャと動く、いかにもレトロなカラオケです。
かなり年季の入った機器でしたが、当時としては相当高価だったのだろうと思います。
月に2~3回ほど、カラオケが好きな入居者様が数人集まり、皆で歌を楽しんでいました。
操作は難しく、必ず職員の見守りが必要でしたが、歌が始まると皆さんとても熱中され、満足していただくには最低でも2時間ほどかかっていました。
収録されているのは、主に昭和30~50年代の歌謡曲でした。
まるで当時の酒場やスナックで歌い慣れていたかのような雰囲気で、生き生きと歌われていた姿が今でも印象に残っています。
カラオケマシンの故障
そんなカラオケマシンが、ある日突然故障してしまいました。
修理も検討しましたが、あまりにも古い機器で管理状況も不明確だったため、修理費用の稟議を通すことができませんでした。
結果として、そのまま使われなくなってしまいます。
しかし、カラオケを楽しみにしていた入居者様からは「何とかならないか」という声が上がり、生活相談員からも相談を受けました。
カラオケは、その方々にとって大切な楽しみであり、生きがいの一つだったのです。
業務用カラオケ導入の検討
そこで私は、施設長に業務用通信カラオケの導入を提案しました。
簡単に見積もると、レンタルで月額でおよそ4万円前後でした。
- 機器使用料
- 楽曲配信料
- 著作権使用料
などを含めた金額です。
しかし結果は却下でした。
月に2~3回程度の無料のレクリエーションのために、この費用を継続的に負担するのは難しい、という判断です。
現実的に考えれば、納得せざるを得ない結論だったと思います。
家庭用カラオケという案
次に考えたのが、家庭用カラオケで代替できないか、という案でした。
歌いたいのは数人の入居者様だけです。
カラオケは趣味なのだから、個人の趣味として自由に楽しめる形にできないかと考えました。
家庭用カラオケを個人で購入していただき、食堂の空いている時間に使ってもらう――
しかし、ここで大きな壁となったのが「著作権」の問題です。
著作権の問題に直面する
家庭用カラオケは、原則として「家庭内での私的使用」を前提としています。
施設の食堂のような共有スペースで使用した場合、私的使用の範囲を超える可能性が高く、著作権上問題となるおそれがあります。
たとえ機器の所有者が入居者様本人であっても、不特定または複数の人が集まる場所での利用には、「演奏権」などが関係してきます。
居室での使用も検討しましたが、騒音の問題があり現実的ではありませんでした。
この点を施設長に伝えたところ、「著作権の問題がある可能性があるなら許可はできない」という判断になり、カラオケの話は見送られることになりました。
改めて著作権について調べてみる
音楽の著作権を管理しているのは、日本音楽著作権協会(JASRAC)です。
施設などで著作権のある音楽を利用する場合、原則としてJASRACへの許諾が必要とされています。
ただし、すべてのケースで必ず許諾が必要というわけではなく、一定の例外や免除規定も存在します。
許諾が不要、または使用料が免除される可能性がある例
- テレビやラジオの放送をそのまま流す場合
※録音再生やインターネット配信は原則対象外 - 一部の福祉施設・医療施設・教育機関での利用
ただし、有料老人ホームがこれらに必ず該当するかどうかは、施設の性質や利用形態によって判断が分かれます。
「無条件でOK」とは言い切れません。
施設内音楽で知っておきたい3つのポイント
調べていくうちに、施設の共有スペースで音楽を使うには、非常に繊細なルールがあることがわかりました。
① 「非営利・無料・無報酬」の原則
著作権法第38条では、以下の3条件をすべて満たす場合、著作権者の許可なく演奏できるとされています。
- 営利を目的としない
- 観客から料金を取らない
- 演奏者に報酬を支払わない
一見すると「スタッフがCDを流して皆で歌うのはOK」に思えますが、実際にはこれだけで判断できません。
② BGMとカラオケは別扱い
JASRACでは、福祉・医療施設でのBGM(聞き流す音楽)については、当面の間、使用料を免除しています。
しかし、マイクを使って歌う「カラオケ」はBGMではなく、免除の対象外となります。
③ 機器の利用規約の問題
たとえ非営利であっても、家庭用カラオケ機器やYouTubeなどを施設で使用すると、メーカーやサービスの利用規約(商用・公共利用の禁止)に抵触します。
家庭用は、あくまで「家庭内利用」が前提です。
手書き歌詞カードにも注意が必要
意外と見落とされがちなのが、歌詞カードです。
当時の私は、入居者様のためにCD-Rを作成し、手書きの歌詞カードを添えていたことがありました。
一見すると心温まる取り組みに思えますが、実は歌詞にも著作権があります。
たとえ手書きであっても、歌詞を複製し、複数人に配布する行為は「複製権」の侵害となる可能性があります。
現場ではよく見かける行為ですが、法的には注意が必要なポイントだったのです。
著作権が消滅した音楽とは
著作権の保護期間は、原則として著作者の死後70年です。
著作権の状態はJASRACのデータベースで確認できます。https://www2.jasrac.or.jp/eJwid/main?trxID=F00100
この期間を過ぎた作品は「パブリックドメイン」となり、自由に利用できます。
しかし、昭和歌謡の多くは、いまだに著作権が有効です。
入居者様に人気の高い作曲家の作品も、今後数十年は保護期間が続くものが少なくありません。
現実的に、施設で比較的安心して使えるのは、
- 童謡
- 民謡
- 唱歌
- クラシック音楽
などに限られます。
高齢者施設のレクリエーションで、これらの楽曲が多く使われているのは、こうした事情も関係しているのでしょう。
結論:安心してカラオケを提供するには
入居者様に安心してカラオケを楽しんでいただくには、業務用カラオケを正式に導入し、著作権処理を業者に任せるのが、最も確実な方法だと感じました。
施設見学の際、営業担当者は「カラオケを楽しむ入居者様の姿」を積極的にアピールしたがっていました。歌うことは、それだけ人の表情や元気を引き出してくれるものです。
元気に、そして楽しそうに歌う入居者様の姿は、これから施設への入居を検討している方にとって、とても魅力的なアピールポイントなのでしょう。
施設におけるカラオケの導入は、もはや欠かせない選択肢になりつつあるのかもしれませんね。
おわりに
多くの施設では、今でもCDを流したり、歌詞カードを使ったりしているのが現実だと思います。
高齢者社会である現在、これらがすぐに問題になる可能性は低いのかもしれません。
しかし、ブログや動画などを通じてレクリエーションを発信する立場であれば、著作権への配慮や注意喚起は欠かせないと感じています。
人が集まる場所における音楽は、人の心を明るくしてくれる、決して欠くことのできない存在です。
だからこそ、ルールを正しく理解したうえで、誰もが安心して楽しめる形を考えていきたいものですね。

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