「VRChat」は、今やメタバースの代名詞といって過言ではありませんよね。
その「VRChat」の進歩の歴史を振り返り、VR体験が身近になった背景を解説します。デバイスの進化とクリエイターコミュニティの力が、どのようにその世界を形作ってきたのか。その道のりをご紹介します。
2014年:すべてはここから始まった
VRChatは、Graham Gaylor(グラハム・ゲイラー)氏とJesse Joudrey(ジェシー・ジョウドリー)氏によって設立されたVRChat Inc.によって開発されました。
VRChatは、2014年1月に最初のβ版がリリースされました。
(ただし、実験的・試験的なビルドで一般配信ではありません。)
当時は現在の多機能なワールドとは異なり、ごくシンプルなVR空間の体験でした。
この頃のVRChatは、まだ「人と会話する場所」というより、「VR空間そのものを試すための実験場」に近い存在でした。
そのため、現在のようなアバターによる雑談や交流の様子はほとんど見られません。
VRの救世主:Oculus Rift DK1 とは
リリース当初、VRChatに対応していたヘッドセットは、開発者向けキットであるOculus Rift DK1のみでした。
今の最新機とのスペック比較です。
| スペック | Oculus Rift DK1 (2012) | Meta Quest 3 (2023) |
| 解像度(片目) | 640 x 800 | 2064 x 2208 |
| トラッキング | 3DoF(回転のみ) | 6DoF(移動+回転) |
| 特徴 | 開発者向けの試作機 | スタンドアロン完結型 |
1990年代にもVRブームはありましたが、当時の機材は数百万円するほど高価で重く、一般人には手の届かない「失敗した技術」と見なされていました。
そこへ2012年、パルマー・ラッキー氏(Oculus VR創業者)がKickstarter(クラウドファンディング)でDK1を発表、そして「個人が買える価格(約300ドル)で、実用的なVR体験ができる」ことを証明しました。
これが、現在のMeta(旧Oculus)へと続く、現代VRの爆発的な普及の起点となりました。
Meta Quest以前は「有線・重装備」の時代
2019年にMeta Quest(旧Oculus Quest)が登場するまでは、VRChatの世界に参加することは、一般の人にとって非常にハードルが高いものでした。
当時主流だったOculus Rift CV1やHTC Viveといったヘッドセットで遊ぶには、以下の準備が必要でした。
- ハイスペックPC:高性能なGPUと大容量のメモリが必要でした。(これは現在でもPCVRユーザーにとっては同じです。)
- 外部センサーの設置:部屋の隅に「ベースステーション」などのセンサーを三脚で設置し、位置を測定する必要がありました。
- 複数のケーブル配線:センサーとPCをつなぐ複数のUSBケーブルや、ヘッドセットからPCまで伸びる専用の太いケーブルが必要でした。
Oculus Rift CV1は、頭や手の動きを正確にトラッキングするために外部センサーを部屋の複数箇所に置き、それぞれをPCに接続する必要がありました。
- ヘッドセット本体 → PC(HDMI+USB接続)
- トラッキングセンサー × 複数 → PC(各USB接続)
- コントローラーもトラッキング対象(センサー経由で追跡)
そのため、PCの後ろや横に複数のUSBケーブルが伸びる状態や、壁沿いに配線を這わせるような設置が必要でした。
当時の動画からは、当時のVR機器のセットアップが一般人に、いかに大変だったかがうかがえます。
2017年:Steamによる一般配信を開始
2017年2月、VRChatはSteam(PC向けのデジタル配信サービス)でアーリーアクセスを開始しました。
これにより、PCハードウェアに比較的慣れた一般ユーザーが参加しやすくなり、利用者数が急増しました。
「デスクトップモード」の初実装
この時、VR機器を持っていなくても参加できる「デスクトップモード」が初めて実装されました。
しかし当時の操作性は、あくまで「VR体験の補助的な位置づけ」にとどまっており、現在のPCゲームのような快適さには、まだ遠いものでした。
「VRChat SDK」と「Unity」
ユーザーがアバターやワールドを自作できるツール「VRChat SDK」が公開されました。
この基盤となったのが、世界的なゲームエンジンUnity(ユニティ)です。
Unityは、『Pokémon GO』『原神』『Among Us』『ウマ娘 プリティーダービー』など、多くの有名タイトルでも採用されている強力なエンジンです。VRChatは、こうしたプロ仕様のツールをユーザーに開放することで、オリジナルのアバターやワールドを制作し、公開する文化を築き上げました。
2019年:Meta Quest版の登場
2019年5月、初代Oculus Questがリリースされました。

ついにPCとのケーブルから解放され、「被るだけ」でVRChatへダイブの時代が到来しました。
これにより、VRChatへの参加のハードルは劇的に下がりました。
2021年:デスクトップモードの正式拡張
2021年8月、デスクトップモードが正式に拡張され、VR機器を持たないユーザーでも、PCゲームとして快適に参加できる環境が整い始めました。
これにより、VRChatはVR専用サービスから、より幅広いユーザーが参加できるプラットフォームへと方針を拡大しました。
- UIの最適化: マウスとキーボードで直感的に操作できる、新しいメニューが導入されました。
- PCゲームとしての完成: デスクトップモードは、VRの代替手段ではなく、一つの完成されたプレイスタイルとして位置づけられ、「正式な拡張」を遂げました。
普通のデスクトップPCで大丈夫?
2023年~2025年:スマホでダイブ「モバイル時代」へ
2023年にはAndroid版のベータ公開が始まり、ついにスマホからVRChatの世界へアクセスすることが現実となりました。
2025年10月に、Android / iOS版が一般ユーザー向けに正式リリースされました。
スマホ版VRChatのリリースによって、誰でも気軽に参加できるようになり、VRChat のユーザー人口は増加傾向にあります。
スマホでのダウンロード数はすでに100万を超え、同時アクセス数も年々増加していることから、スマホ対応が参加者拡大の重要な要因になっていることがうかがえます。
普通のスマホで大丈夫?
まとめ:VRChatの歩み(沿革)
- 2014年:VRChat誕生、DK1対応の実験的チャットツール
- 2017年:Steam版リリース、SDK公開とデスクトップモードの実装
- 2019年:Quest版リリース、PC不要のワイヤレスVRが普及
- 2021年:デスクトップモードの「正式な拡張」、PCゲームとしての完成
- 2023年:Android向けベータ版がリリース、スマホからの参加可能に
- 2025年:Android / iOS版が正式リリース、モバイルアプリとして一般使用が可能に
おわりに
VRChatの歴史は、ハードウェアという「高い壁」を、技術の進化とユーザーの情熱で一つずつ取り払ってきた歴史です。
かつては一部の熱狂的なマニアだけの場所だった仮想世界は、いまやスマホ一つで誰にでも開かれた場所になりました。
この進化の背景を知ると、いま私たちがアバターを通じて誰かと出会えることの凄さが、より一層深く感じられるのではないでしょうか。


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